クリード チャンプを継ぐ男(ネタバレが致命的な映画ではないし配慮しない)

始めに書いておくと、酷評に近いのだけど、タマフルでの宇多丸師匠は2015年に間に合っていたらベスト3には入ったと絶賛だし。リスナーでも賛が8割だったとのことなので、気にせず観に行くのがいいと思います。

話の筋はいいです。っていうかそれしかしようがないし、求められてる物でもあると思う。しかしその道は、お客さんに驚きを提供できない、想定を超えないのだから、ならば変な隙があってはいけないと考えるのに、これはその点相当な不満がある。全てにおいて、ああ、まあ、そうなんでしょうね、という反応に。

ああ、まあ、そうなんでしょうね集

何故ロッキーがコーチを引き受けるのか

まあ、そりゃ引き受けるよね。さもないと話にならないし、誰もがそういうものだとわかって観に来てるわけだから。でも、なんでもう業界離れて長く、取り合ってもくれなかった彼が、引き受けるよう心変わりしたのか、納得できる描写がない。

直前のシークエンスはエイドリアンのお墓の前で新聞を読んでいたというもの。そこまでは、めんどくさそうに追っ払って、根負けして練習メニューのメモを渡してたぐらい。何か転機になることあった?

そもそもなんでアドニスはボクサーを志すのか

今回の主人公はこの手の映画には珍しく(というか記憶にない)、インテリ。(ぱっと見)よさげな会社に勤めて、大きな家でいい車に乗っている。それをいきなり辞める。

もちろんそこはクリードの血がさせることなんでしょう。youtubeでアポロの試合観ながら自分もやりたくなってる、ってところなんでしょう。でも、これも、ああ、まあ、そうなんでしょうね、って感じ。いい年こいていい生活捨てて無名のボクサーになるって、普通の人にはまったく理解できない大事だよ。かなり強めのモチベーションを見せてくれないと納得できない。仕事を辞めるところから始める意味がわからない。

あと、これ、夢をつかめ!みたいな台詞との親和性がものすごく悪い。チンピラの成り上がりだから活きるアレでさ。いい暮らしだったらお前が勝手に捨てたんじゃんってことだから。ついでに書くと、あんなスーパースターになったロッキーがいい年なのに従業員も使わず、小さなレストランで自分で荷物運んだりしてるのもアレ。夢の話はもちこめないよね、これ。

ついでにもうひとつ、インテリっていう設定が足を引っ張るのは、いうてもアドニスは結局他のボクサー映画と同じくチンピラなんだよ。全然インテリじゃないんだよ。バカがやりそうなことをそのまんまやるんだよ。じゃあその設定いらないじゃん。全然活かせてないじゃん。いい生活をしてるのに血に勝てなかったっていうこと言いたいだけで、そのための補強を全然してないじゃん。

なんでアドニスとビアンカが恋に落ちるのか

よくある出会いは最悪メソド。夜中だってのに音楽がうるさいご近所さんで、注意したのにすぐにでかい音出したというもの。で、なんで食事誘うかね?かわいいから?や、まあ、かわいいけどさ。

そこで進行性の難聴の話が出る。この順番が逆ならわかるんだ。耳がよくないから音が大きいのに、知らなかったとはいえいきなりすごんで悪かったなとお詫びの食事。で、そこをきっかけに恋にってならいいさ。それしないならビアンカの進行性の難聴の話にストーリー上の機能としての意味があまりない。

まあ、そりゃ恋には落ちるんだろうけど、やっぱり、ああ、まあ、そうなんでしょうね、だよ。

アポロの息子であることを隠していたのを何故ビアンカが怒るのか

フィラデルフィアでアポロって英雄じゃないよね?英雄はロッキーの方だよね。それも30年だか昔の。それ、特別ボクシングに興味のない女子にとって重要なこと?今、東京で「なんで新垣諭(東京以外の世界チャンピオンで在位期間から適当に選んだ)の息子だって隠してたの!?」って怒る女子いる?

や、まあ、そりゃ秘密があったって怒るのはそりゃそうなのかもしれない。でも、アポロがこの街でどのぐらいの影響があるのか知らしめるエピソードあった?なきゃそれが言わないと怒るレベルの秘密なのかがわかんないよね。

なんでお母さんは理解してくれるようになったのか

リングに上がるならもう連絡するなっていって、アドニスからの電話(留守電)もガン無視してたのに、なんで許すの?

まあ、そりゃ許すさ。特にあの星条旗のトランクスを渡すのは重要だからね。でも、なんで?なにをきっかけに?なんのシークエンスもなかったよね?

このチャンピオンは強いのか

まず、ルックスが悪い。この人は雑魚役ですって言われても納得するぐらい、あまりハッタリが効いておらず、身体が全然できてない。

とはいえ、この身体でも、努力しないでも強い天然なんですっていう作り方はできる。ただ、やはりそれを知らしめるシークエンスがない。唯一その機会であった試合を、記者会見で暴れて試合を潰すバカってことに使ってしまう。あれ、ホントいらなかった。名前忘れちゃったけど、一応訓練前とはいえアドニスを瞬殺してるボクサーなんだからそれをあっさり倒せば一応の筋は立ったでしょうに。

ということで、これも、ああ、まあ、チャンピオンっていうぐらいだから強いんでしょうねっていう印象。4のドラゴなんかと比べても大違い。あれはアポロを完膚なきまでに叩きのめしたわけだから完全にラスボス。

あと、多分、このマネージャーが無名のアドニスを指名するってのは、ロッキー1のオマージュなんだと思うんですよね(それを使わないと無名のアドニスが挑戦権を得るという無理筋を突破できないし、終わり方も含めて)。でも、それならやっぱりあそこは素直にちゃんと試合して、こんな身体だけど強いんだっていうシークエンスを設けた方がよかったのではないですかね。本当にただ対戦相手がいなくて困って、もう一応話題性はあるしこいつでいいやってアドニスを選んだという、やむを得ずに見えてしまって、オマージュ感がなくなった。

なんでチャンピオンは試合後友好的になるのか

いい試合だったから認めるみたいなやつじゃなかったでしょ?そういう描き方してないでしょ?

まあ、そりゃたたえ合うさ(略)

その他

あの曲の使い方が中途半端。あそこからああ続くんじゃガツンと使っても活きないのもわかるけど、え?それだけ?そこで終わるの?ってがっかりした。やるなら照れずにやらんかい。

最後に、これはシリーズ伝統というか、こういう映画の悪癖だけど、パンチが当たりすぎる。そんなん入ったらカウント取らずに試合止めるわっていうレベルのがガンガン入ってる、けど倒れもしない。格ゲーじゃないんだから。古い映画は古い映画で、せっかく2015年にやるならもうちょっとそういうところ真摯に取り組んで欲しい。今どき少しぐらいリアリティーにも気を遣っておくれな。

宇多丸師匠が言うように、話題になりそうなタイトル使って適当にお金儲けという批判は当てはまらないと思っていて、真摯に作っているとは思うのだけど、能力が至らなかったという感想にはなってしまう。こういうのこそ手堅いベテランにやらせたい。

ついでにいうと、その撮ったことのない無名監督の熱意にスタローンがほだされてっていうのが本作そのまんまじゃないか!みたいなの。終わってから知ればなるほどいい話かもしれないけど、映画そのものの評価としてはどうでもよくないですかそれ。