10/RIP SLYME

うーん、よくない。今作に限ったことでもないんだけど、間違ってると思うほどのポップミュージック志向がここにきて限界。

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 リップのよさって、確かにそのポップさなんだけど、それってポップソングを作ろうとして出たものじゃないと思う。あくまでFGの一員としてのヒップホップであって、そのフォーマットで隠しきれずに出てしまうポップさというところが肝。FUMIYA(とPES)が作るトラックっていうのは、コード感を多分に含む。大変大雑把な物言いだけど、コードがあるということはその中にメロディーが包含されている。それにあえて乗らないことで生まれるメロディー。ちょっと違うけど、主であるトラックに対し、ゴーストノートのように言葉が機能する。それがおれにとってのよいリップ

Cのコードに対してドレミファソラシドを乗せてもそれは音楽にならないというか、なんのおもしろみもないわけだけど、今のリップはそれに近い。メロディーをコードにのせるセンスが特別あるわけではないのに、それが武器であるかのように、メローなトラックに、コードそのまんまの歌メロディー的ラップをのせてしまっている。

かつて”ONE”が売れていたとき、まったくラップを聴かない当時の彼女に薦めたところ、ラップのところはカッコいいけど、サビはつまんないと言っていた。ぱっと聞き逆のようだけど、それはヒップホップ門外漢の感想としては実によくわかる話で、ジャンル関係なく、一番響く、目立つところが肝心なのだ。ラップにおけるサビ、所謂フックはポップミュージックと違って、多くの場合その曲の肝では全然ない。なくてもいいけど、あると落ち着きどころができるとか、門外漢にも耳馴染みがいい、ぐらいのもの。リップはそれを作るのが上手い方ではあるのだけど、ポップミュージックの俎上に乗せて耐えるものなのかというと、必ずしもそうではないということ。

もうひとつ、リップがポップミュージックとして勝負すべきでない理由として、コード”進行”というものがある。ヒップホップは基本的にそれをしない。とするとポップ、ロックとしてメロディーを立たせるのは難しい。もちろんAメロもサビも同じコード進行の名曲はある。”Smells Like Teen Spirit”とか”深夜高速”とか。だけど、そんなに多いものでもない。ちょっとした飛び道具。それを毎回やって武器にするってのは厳しい。

では、リップはもうリズムとフローと、その中からにじみ出てくるメロディーのキャッチーさを失ったのかというとそんなことはない。それができているのが12曲目の”Vibeman feat.在日ファンク”。抑圧されて、メロディアスとはいえないがリズムの強いフローがファンキーなリズムにのっかり、キャラの立った4人のMCが入れ替わり登場することによるキャッチーさ。そしてハマケンの歌うフック。これこそ雑念とかステッパーズで示されたリップのオリジナリティであり、魅力だ。そのハマケンの歌うフック、”震えろ 震えろ 震えろ 震えろ”ってところ。ラップが終わったところで出てくればノリノリのサビとして機能するし、ライブでやることがあればかなり盛り上がるだろうけど、これを例えばギターの弾き語り一本でやってみたらどうか。何の面白みもないはず。でも、それでいい。もしかしたらよくなかったのかもしれないけど、リップスライムという5人組が生み出したフォーマットはそれを最高に魅力的なものにしたのだから。

申し訳ないけど、例えば”青空”のなんと退屈なことか。もっと言葉とそれに伴って生まれるリズムとフローを大切にして欲しい。それがないなら聴く理由もない。