製作でない仕事のススメ

佐野研二郎氏の件で思うところを。製作会社の仕事がわからずに、印象で意見を言ったり、それだけなら全然かまわないけれど、叩きまでいっているのを見るとちょっと心が痛むことがあるので、自分のわかる範囲で書きます。あれがパクリかどうかについては書きません。なるべく業界用語を避けますが、わかりにくかったらごめんなさい。

ただ、これだけは先に

仮にコーラのコマーシャルの仕事があったとして、それで採用された曲にパクリ疑惑があったとします。それに対し、パクリ元と言われているのは伝統的なブルーズを基調につくられたものだけど、これはポストロックのアプローチから入っている。メロディとコードはすごく近いかもしれないけど、設計思想が違うのだからパクリではない、なんてことを言われて納得する人がいるでしょうか?しかもただでさえ納得出来ないできないところに、曲作ったことあるの?素人にはわからないだろうけどミュージシャンから言えば別物なのは明らかだよ?なんてこと言われたらどうでしょう。知ったこっちゃねえってところではないでしょうか。佐野っちを擁護している人たちの多くがそれを言っている。だけならまだしも、彼はそんな人ではないとか、人格擁護に至っては、もうちょう知ったこっちゃねえです。むかつくだけだからやめた方がいい。

広告の一環として作られたならそれは設計思想が云々されるような芸術ではなく、販促物です。だから、パクリじゃなくたって、ターゲット層にすごく似てるって言われたらもうダメです。意味がないから。

 本題

彼を擁護している向きに感じるのは、電通博報堂関係者、またはその直仕事があるとか、そこに入れそうなタマビムサビの就活強者、佐野っちみたいなスターデザイナーのワナビーぽいのが多いのかなということです。これは揶揄ではなく、そっちの正義なのだからそれはそうでしょう。目立つ仕事をして話題になって、賞をとって、いいもの食べたり着たり、雑誌のインタビューを受けたりする佐藤可士和のような人たち。すごいですよね。憧れますよね。心から素晴らしい。なれそうなところにいるならなりたいし、そういうスターの存在が許される世界であって欲しいですよね。

ただ、殆どのデザインを職業としている人たちは彼らのような存在ではありません。99%以上違います。佐藤可士和みたいなものは特例中の特例です。なのに、それがデザイナーというものの象徴と見えてしまっていることに大いなる危険を感じるのです。(ちなみに、佐野っちも可士和もアートディレクター、ADだけど、ここについては長くなるので割愛します)。これは、一昔前ならコピーライターといえば糸井重里ってのと同じです。

企業はとにかくクリエイティブにお金を払いたがりません。デザイン費やライティング費なんて項目でたとえば10万円なんて見積があると真っ先に削りたがります。でも、デザインもライティングも作業です。ポスター1枚デザインするなら、どんなんでも1日では終わりません。終わるものなんて大したものじゃないです。で、それは作業だけの話で、内外部の打ち合わせが事前にも途中にもあります。さらに、この佐野っちの問題でも出たように、素材の手配という問題が生じます。これが十分ってことはあんまりなく、リンゴの写真一つ欲しいだけでも数万円かかったりします。疑うようでしたらアマナとかで検索してみてください。もちろん安いところやフリーの素材集もあるにはあるけれど、言ったら悪いけどゴミの山の中からなんとか使える物を探す作業です。大概これをこれこれこう加工すれば使えないこともない、って感じ。もちろん自分たちで撮影するなんて論外も論外。買ったらお金、買わなかったら時間がかかります。これだけやって3日でデザイン一つ10万円とったら粗利いくらかって考えると、ってかあるのかな?時間外手当払ったら大赤字は間違いないです。

ちょっと脱線して佐野っちの話に戻るけど、だから、提案段階で人様の素材を使うことはよくないけど日常です。コンペとか提案はしょっちゅうなんです。とてもじゃないけど毎回毎回買ってはいられない。それはスター様でも別世界ではないんだなーと今回思いました。

話戻って、可士和が1%以下の存在であるように、サントリーやオリンピックエンブレムもまた1%以下の仕事です。だから、1%が1%を取り合うような話で全体をイメージしないでください。これは99%ではないけれど、毎日毎日たいした給料ももらえないようなところで下手したら土日もなく終電泊まりを当たり前のようにこなし、ADなんてキャリアパスのないところで、将来どうなるんだろうと怯えながら過ごしているのがクリエイティブで働いてる人たちです。50歳のデザイナーを想像してみてください。経験はあれど、前述のハードワークにはもう耐えられないでしょう。でも単価はそんなもん。どうなりますか?(知りません。本当に)

要するに

みなさんはデザイナー、クリエイティブ職といわれたときに、佐野っちや佐藤可士和糸井重里をイメージしないでください。まあ、しても仕方ないとして、それをベースに嫌わないでください。皆さんの多くと同じ名無しで、月給(下手すりゃ時給)なんぼで、テレビドラマがやってるような時間にはまず帰れない人たちです。

そして、もし、クライアントになることがあったらケチらずクリエイティブにお金を払ってください。特殊技能です。誰でもできることじゃありません。カッコいいのを作れる人が高いのは当たり前だし、そうじゃないと社会が回らないでしょう。ていうか、時間いくらの作業と計算してみたらそんなべらぼうな額はのせてないと思いますよ。

最後にコンペについて

コンペというものは大概悪です。提出案を作ることは限りなく本チャンに近い作業です。もっさ人件費かかります。それを数社に行わせ、負けたところはただの損。勝ったところも、その費用を本チャンの見積もりに計上できることはあまりありません。ほぼ全員を泣かせて、数案の中からマシな物を選ぶやり方です。

しかも、案が素晴らしくてもプレゼンが上手いやつに負けることがある(ここ重要)。

こんな感じの物が食いたいなーってだけ言って、数人の料理人に味見用の皿を作らせ、説明させ、一口食べて、気に入った物だけ金払うからちゃんと一人前作れ、後は帰れ、試食用なんだからその費用は出さん。こんなことが普通なんてクリエイティブだけじゃないですかね。

もちろんコンペ費出す案件もありますよ。ただ、それこそ1%の仕事じゃないかなーと思います。ちなみに某カンコーチョーの案件も出ませんでした。

ということで

タイトルだけど、スター街道でなければ給料は安いです。拘束時間も長いです。理不尽な目にもめっちゃあいます。正直言うと殆どおもしろくない案件です。マジで。だからやめておきなさい。

それでも万が一にかけてスタークリエイターになりたいという君!君は天才か?そう即答できるならやりなさい。あとはやめておきなさい。

ここまで言われてもクリエイティブに関わりたいという天才じゃない君。止めても無駄だからやりなさい。そういう人がいないと世の中がどんどんダサくなってしまうから、君は社会にとって気づかれないけど必要な人になります。ただ、老後に備えて貯金はしておくんですよー。あと、いろんな意味で40超えたらできないと思っておけよー。

おれは降りた。むり。